マイアミE-Prixでルーカス・ディ・グラッシが獲得した2位という結果は、シーズン中1回限りのジャイアントキリングのように見えるかもしれないが、より本質的で価値のある結果が出る日も近そうだ。
去年、ローラがフォーミュラEへの参戦を発表した時、真面目に受け止めた人は少なかった。オーナーのティル・ベヒトルスハイマー氏が参戦に関して問い合わせをしたのは2023年末だが、その時は選手権のプロモーターですら真に受けなかったのだ。
今や全く違う状況だ。ローラは復帰しただけでなく、直近の最盛期といえる、前オーナーのマーティン・ビレーン氏の時代にもなかった活気を帯びている。
ビレーン氏はワークス体制での参戦に強く反対したが、彼がそう考えるのも当然だった。ビレーン氏が1998年にローラを買収したのは、前年、創業者のエリック・ブロードレイ氏が決めたF1参戦が大失敗に終わり、同社が経営難に陥っていたからだ。
会社の評判を大きく落とすことになったローラのF1での大失敗は、今日においても、レース参戦ですべきでないことのケーススタディとなっている。

2022年初頭にベヒトルスハイマー氏はローラを買収するや、すぐさま現実的で論理的なアプローチを取った。性急な決断や感情的な浪費はなかった。様々なカテゴリーを検討した結果、2017年~2022年にかけてテチーターを成功させたマーク・プレストン氏とキース・スマウト氏に会った後、フォーミュラEに参戦することを決めた。
2022年7月、ベヒトルスハイマー氏がニューヨークE-Prixで密かにパドックを視察していたのと同じ頃、トーマス・ビアマイヤー氏もアプトを以前活躍したフォーミュラEに復帰させる準備をしていた。
動いたのはアプトの方が先だったが、マヒンドラとのタッグが失敗に終わったため、フライングスタートとなった形だ。そして2024年1月、ローラとアプトというスターたちが提携し、2024年~2025年シーズンのパートナーシップを結ぶことで合意した。
そこでルーカス・ディ・グラッシ選手が付いてきた。2016-17年のシリーズチャンピオンである彼はキャリアのピークを過ぎ、引退も近いとみなされていた。2023-24年のシーズンにおいてチームメイトのニコ・ミュラー選手に完敗したこともそれを裏付けている。それなのになぜ、ローラはディ・グラッシ選手を引き留めることに熱心だったのだろうか?
2024年6月、ノーサンプトンシャーにある風の強い飛行場で、ベヒトルスハイマー氏の時代のローラの初めてのシェイクダウンテストが行われた。人々の目が届かない場所だったが、The Raceはこの歴史的な瞬間を見届けるためにそこに居た。そして午前9時前、少人数のアプトとローラのエンジニアとメカニックの目の前で、ディ・グラッシ選手がストレートラインの走行を始めた。
彼はそれを一日中ずっと繰り返した。質素な日よけとぬるいコーヒーしかない場所で、ディ・グラッシ選手は熱心に新しいプロジェクトに取り組んでいた。それが、彼が今もフォーミュラEにいる理由だ。モナコで妻子とゆっくり過ごすこともできるのに、代わりに古い飛行場で働くことを選ぶほど、彼にはフォーミュラEで闘いたいという強い思いがある。
それから9か月後、ディ・グラッシ選手はブラジルの国旗に包まれ、自身の子供たちに囲まれて、ホームステッドの表彰台に立った。冴えない飛行場から、ローラの5回目のレースで2位という、とんでもない展開なのだ。

「とても大きな成果であり、もちろん予想などしていなかった」とベヒトルスハイマー氏は語る。
「初めてパフォーマンスに集中できたレースだった。ここまでの目標はトラブル対応をし、走りを安定させ、基本的なことを正しくするだけだったから」
「現在のパッケージのパフォーマンスを出すところに至ったばかりなのに、表彰台を獲得した。本当に自信になるし、チーム全員にとって大きな刺激になる」
ローラ・ヤマハ・アプト、特にディ・グラッシ選手のマイアミでの成功のカギの一つは、ドライバーとエンジニアの間に明確なコミュニケーションがあったことだ。ディ・グラッシ選手はアプトでエンジニアのマーカス・ミケルバーガー氏と長年組んでおり、その深い関係が実を結んだ。スポーティングマネージャーのフレデリック・エスピノス氏によると、二人のコミュニケーションによって「多くの重要な領域が改善した」という。
このことにはベヒトルスハイマー氏もよく気付いており、「実際、チームはこのレースに向けて、特に戦略とコミュニケーションを中心にプロセスを推進し、それをより良くすることに注力していた」と語る。
「彼らは冷静にコミュニケーションを取っていた。私は気を失いそうだったが、私以外のチームの全員はとてもプロフェッショナルで、ルーカス(・ディ・グラッシ選手)が必要な情報を彼に伝えていた」
「彼はどのクルマにペナルティがあり、どのクルマと闘う必要がないかを知っていた。その情報を基にレースマネージメントをよくやってくれた」
ローラ・ヤマハ・アプトは2位という結果で18ポイントを獲得し、チームズ・チャンピオンシップでクプラ・キロとエンヴィジョンの上に浮上した。これは目をこすり、二度見してしまうほどの快挙といえる。
「とてつもない成果だ」とベヒトルスハイマー氏は付け加えた。
しかし、レースというものの性質上、自身もレベルの高いシリーズのジェントルマンドライバーであるベヒトルスハイマー氏は、チームの目標はすでに、コンスタントにより多くのポイントを稼ぐことに変わったことを知っている。「目標を達成し次第、すぐに次の目標に目を向ける」と彼は語る。
「もちろん、2位よりいい結果というのはあまりない。このレースを見直して、次の目標を決めることになるだろう」
「しかし、われわれがこれを複数年にわたるプロジェクトと考えていることに変わりはない。Gen4レースカーの開発は順調に進んでおり、週末にはヤマハとのパートナーシップを延長することを発表した。このようないい結果を得るのに、最高のタイミングだ」
「われわれには非常に大きな野心がある。だが道のりはまだ長い。今シーズンで勝つことが目標なのではなく、2~3年後を見据えている」
「とはいえ、今シーズンもベストを尽くしたいという気持ちは変わらない」
ローラの新オーナーは同社の偉業と伝統にきちんと敬意を払ってはいるものの、物語の次の章を書くことに集中しており、そのことが、レースの世界で最も由緒あるこのブランドの、明るく前向きな成長に貢献しているのだ。